腸重積(ちょうじゅうせき)

【閲覧にあたり、ページ内の一部に疾患の状態や手術中の様子を示す写真が含まれることをご留意ください】

ミックス犬
オス2か月

今回はどうぶつシェルターティアハイムさいたまで保護された生後2か月のミックス犬が腸重積で一命をとりとめ、元気になったお話です。
4匹の兄弟で保護されてきたつばさ君ですが、兄弟そろって下痢をしていました。

便検査をして、らせん菌がいたため抗菌薬や整腸剤を投与して経過をみていたのですが、ある日下血が始まり急に衰弱していきました。これは何かおかしいということで超音波検査をしたところ腸重積を起こしていました。

腸重積は手術をしないと治らない病気です。しかしただでさえ小さな体が、脱水や下血、腸重積による消化管の損傷などで手術自体がうまくいっても、その後回復できる余力が残されていない可能性が高い状態でした。

とにもかくにも緊急手術です。一刻も早く腸重積を整復し、全身状態を上向かせる必要があります。

開腹すると重積した腸は正常な腸に比べて膨れており、腸が入り込んでいる様子がわかります。中に入り込んだ腸は血行障害を起こし広範囲に赤黒く変色しているのが透けて見えます。また、そういった腸はすでに壊死が始まっているため整復する際に裂けてしまうこともあります。

重積を整復する際にはコツがあって腸を引っ張るよりは外からゆっくり押して中に入り込んでしまった腸を少しずつ押し出すようにすると腸を傷つけるリスクが減ります。とはいっても壊死しかけている腸はとても脆く、この子の場合は裂けてしまいました。

すでに裂けてしまった部分はもちろん、変色が強い部分は今後壊死してしまう可能性が高いため切除して腸と腸をつなぎ合わせる必要があります。

つなぎ合わせた後は腸の内容物が縫合部から漏れないかをチェックします。
また、縫合した腸と隣接する腸を並列に縫合することで、また重積を起こさないようにします。

手術と同じかそれ以上に気を遣うのが麻酔です。
このように状態が悪い子に健康な子と同じように麻酔をかけると術後の回復に大きな影響が出たり、腎障害や脳障害などの後遺症を起こします。
筋弛緩剤、麻薬系鎮痛剤を投与することで極力麻酔の量を減らして血圧の低下を防ぎ、それでも血圧が低い場合には昇圧剤(血圧を上げる薬)を投与して、術後の後遺症を予防します。(ほとんどの症例が手術やCTやMRIなどの精密検査で麻酔が必要となる救急センターで働いていたため得意とするところです)

手術は問題なく終わりましたが、一番大変なのは術後管理でした。小さな動物は点滴の為の血管も細いです。手術の前にも下痢や嘔吐で静脈点滴をしていましたし、手術の日からも点滴をしていましたが、短期間に何度も腕の血管で点滴をしていると血管がつぶれて(細くわかりにくくなって)点滴の針を入れられなくなってしまいます。

右手も左手も点滴の針を入れることができなくなり、体が小さすぎて後ろ足の血管も使えません。(後ろ足の血管はまっすぐでなないためある程度の体格が必要)
せっかく手術を乗り越えてくれたのに術後の回復に重要な時期に点滴や輸血、抗菌薬の投与ができなければ死んでしまいます。
そこで再度麻酔をかけて頚静脈にカテーテルを挿入し(頚静脈にカテーテルを入れる場合は麻酔をかけないとできません)、頚静脈からの点滴を開始しましたがこれが大変でした。

術後からは点滴をしているとすこぶる元気なので(していないとすぐに低血糖になってしまうのですが…)、動き回ってしまいカテーテルが折れ曲がって点滴が流れていかないとアラームが鳴ります。点滴が流れない状況が長く続くとカテーテル内に血液が逆流してその血液が固まると命綱のカテーテルが使えなくなってしまいます。
少なくとも3日は抗生剤の静脈点滴や輸血をしたかったので夜は家に点滴台ごと連れて帰ってアラームが鳴るたびに点滴の位置を確認する日が続きました。

そんなこんなで、貧血や低血糖からも脱し、なんとか一命をとりとめたつばさ君でした。

今では短腸症候群などもなく普通の子と同じように生活しています。

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